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K.I.D. 13




 最初に惚れたのは俺が先。
 見目麗しく明晰豊富な頭脳を持った名探偵。
 捕らえようとするその人を調べるうちに興味を持った。
 対峙するうちに好意を持った。
 好意の先にあるのは、愛情。
 自然に変わってゆく心に戸惑いと躊躇いを感じながらも
 好きにならずにはいられなかった。

 泥棒には興味がないと言ってくれた人。
 少しでも興味をひこうと出来る限りの手を尽くして。
 やっと向き合える時間を持った。
 至高の時。
 見据えるその双眸の激しさに、確かに感じる昂揚感。
 その瞳を失いたくないと思った。
 他の何を失っても、その光だけは。
 たとえ彼の隣りに立つことが出来なくても。
 たとえ彼の瞳に二度と映ることがなくても。

 何を失おうと、それだけは失くせない光。
 自分の中の暗闇で、ただひとつ輝いていてくれる光。


 白き罪人を生かすことの出来るのは、光の魔神の強い光のみ……



* * *



「黒羽君、ちょっと待ちなさい!!」

 後方から怒鳴るような声が聞こえてきて、快斗は嫌々振り返る。
 そこには予想通り、紅子の姿があった。
 普段の彼女であれば決して怒鳴ったりはしないので、快斗は少しばかり驚いていた。

「なんだよ、紅子…」

 授業終了のチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出して、急ぎ足で協力者である科学者の少女を訪ねようとしていた矢先。
 先日、自分には構うなと言って以来、すっかり大人しくなってしまったので安心していたのだけれど。

「あなたが構うなと言うから、構う気はなかったのよ。あんな風に脅されたらこちらの気分も良くなかったからね。」
「……何が言いたい?」
「だけど、あなたがあまりに…やつれて見えるからかしら。白いはずの衣は今は傷付き血が滲んでいるわ。」
「?何の話をしてるんだ、紅子」

 ふ、と息をついて。
 一度閉じた目を再び開くと、強く快斗の瞳を射抜くように睨み付ける。
 そしてその口から信じられないような言葉を囁いた。

「光の魔神の居場所を教えてあげる、と言えばわかるかしら?」
「!?」

 驚きに快斗は目見開く。
 その様子に紅子は満足げに笑った。
 からかうような笑いじゃなくて、癒すような暖かい笑みで。

「そ…れは、本当なのか?場所…わかるのか?」
「ええ。私の魔力は本物なのよ。」
「どこだ!?どこに居る!?俺はアイツに言わなきゃいけないことがあるんだ…ッ!!」

 ガッ、と強く肩を掴んできた快斗の手が震えているのを感じた。

「正確な居場所はわからないわ。ただ、道しるべにはなってあげられると思うの」
「なんでも良い、教えてくれ!」

 あまりの必死さに息を呑む。

「光の魔神は、其の光と同種の光を放つ者の近くに居るわ。彼の光は西方に輝いている。」
「同種……西…」
「気をつけなさい。魔神は光を失いかけているわ。早く見つけてあげることね。」
「……え?失いかけてるって…」

 意味ありげな言葉だけを残して、言いたいことは言ったわ、と紅子は帰っていった。
 残された快斗はひとり、茫然と立ちつくす。

 同種の光…西…。
 つまりは、西の探偵と囁かれる服部平次のところにいるというのか。

 彼のもとには一度、連絡を入れている。
 自分の声では警戒されてしまうだろうと、毛利蘭として電話をしたのだ。
 けれど居ないと言っていた。
 つまり、彼は新一に頼まれて口を噤んでいるのだろう。

 そんなに俺に居場所を知られたくなかった…?

 その魔神は光を失いかけているという。
 それの意味するところは何だろうか。
 あの蒼く激しい輝きを放つ瞳から、光が失われるというのか。
 自分を捕らえて離さない瞳。
 人を惹きつけてやまない、あの輝き。
 その光が、自分の所為で失われるというのか。

「冗談じゃねえ…ッ」

 快斗は猛スピードで駆けだし、志保のもとへと急いだ。





「そういうこと…」
「……そういうことって?」

 阿笠邸に駆け込むなり、志保をつかまえて事情を大雑把に話した。
 聡い彼女は興奮した快斗の説明でも大方理解してくれたよう。

「人ひとり、世間から身を隠そうとするのは大変なことだわ。けど、協力者がひとりでも居るならそれも幾らか容易になる。…私や工藤君のようにね。」
「そっか……しかもその協力者があの西の探偵だって言うなら、なおさらか…」
「そういうこと。」

 志保は短く息をつく。
 居場所はわかったけれど、どうしたものか……。
 一度、彼の最も大事にしている幼馴染みである蘭のふりをして電話をかけたことがある。
 けれどその彼女からの電話にも応えてはくれなかったのだ。
 それなら一体どうやって彼に連絡を取れば良いのか。

 いくら西の探偵と言われていようが、家族と同居する彼のもとに新一が転がり込んできたのなら、少なからずそういう話が耳に聞こえてきてもいいはず。
 それなのにいくら待っても何一つ情報が入ってこないということは、恐らく家族にもこのことは知らされていないのだろう。
 自宅とは別宅があるということなら、押し掛けるのもマズイ。

「悩んでてもしょうがないよ。電話…しよう。」

 志保が何を考えていたのかを見通したような笑顔。

「早くしないと、俺の所為であいつ…探偵廃業になっちまうかもしんないし…」
「廃業…?」
「光の魔神である新一の『光』ってさ、真実を追いかけて謎を解き明かす意志の強さなんじゃないかと思う。間違いなくそこに惹かれたのは誰でもない俺だしね。その光が失われるっていうのは……そういうことなんじゃないかな、って。」
「そうね。彼の光とはつまりそういうことでしょうね。」
「そのアイツを現実から離れさせて嘘つかせてるのは俺だ。きっといっぱい傷付いてる。だから、なんとしてでも引っ張り戻してやるんだ。」

 嫌われてもね、と笑う顔が痛かった。
 柔らかい笑顔なのに、その瞳にはありありと哀しみが浮き出ていて。

 バカね……。
 その心配はいらないとヒントはあげたというのに。
 結局『理由』は見つからなかったってことかしら?

「嫌われる云々はこの際二の次よ。あなた、気持ちを吐露する気、あるんでしょ?」
「もちろん。気持ちを伝えて……こんなバカな奴でも、お前を心底愛してたんだよって知っててもらいたいからさ」
「それなら良いわ。電話、するんでしょ?」

 うん、と答えて快斗は携帯電話を取り出す。

「この際、方法は選んでられないわ。悪いけど、また彼女の声を借りましょう」
「………うん。」

 頷いて見せながら、どこか腑に落ちない返事だと志保が眉を寄せた。
 何かを言おうとした時、けれどすでに携帯は呼び出し音を発していて、快斗は無言のまま人差し指を口元にもっていく。
 静かにねvと口の動きだけで伝えると、何かを覚悟したような笑顔を向けた。

『はい、もしもしぃ?』

 相変わらず元気の良い服部平次の声が受話器の向こうに響いている。
 覚悟はしたものの、心臓の音がうるさくて、うまく言葉が紡げない快斗。
 無言のままで居ると、痺れをキラしたのか、

『なんや、悪戯電話かいな』

 という不機嫌な声が聞こえてきた。
 ヤバイと思って何かを言いかけたとき。

『………ちょお待て、アンタ……あいつに用事あるんとちゃうか?』

 突然聞こえてきた意外すぎる言葉に、またも快斗は言葉を失ってしまったのだった。



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