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あなたにモーニングコールを




「いやいや、でも……やっぱり……いや、でもちょっと待てよ…」

「…どうしたんですか、高木さん?」

「――わああ!」

 背後から掛けられた声に、高木は言葉通りに飛び上がった。

「く、工藤君!や、やあ…久しぶりだね」

 必死に平静を装うものの、いちいちどもってる上に表情も硬い。
 何かまずい場面にでもでくわしただろうか?と小首を傾げる名探偵・工藤新一に、高木は眉尻の下がった情けない顔を更に歪めた。

 実は、先日川原で名探偵のキスシーンを目撃してしまってから、高木の様子はおかしい。と言うか、怪しい。
 新一の顔を見るなり顔をゆでだこのように赤らめたり、プライベートな話題になりかけると慌てて軌道修正したり。
 が、幸か不幸か、そんな挙動不審な姿を佐藤にはまだ見られていないため、理由を追及されることもなくこうして平和(?)な日々を送っていたのだが…

(そ、そうだ!工藤君になら相談できるかも…!)

 厳つい先輩や同僚にはとても相談などできないが、この名探偵ならきっと素晴らしいアドバイスをくれるだろう。
 それに…彼ならアレがアレでアレだし…ごにょごにょ。
 …こほん。
 高木はひとつ咳払いをして、それから遠慮がちに口を開いた。

「あ、あの、工藤君…少し相談があるんだけど、時間あるかな?」

「え?僕にですか?」

「うん…できれば君に聞いてもらいたいんだけど…」

「大丈夫ですよ。今日は資料を見せてもらいに来ただけですし、特別急ぎでもありませんから」

「ほんとかい!?」

 ぱあっ、と表情を輝かせる高木に新一が苦笑をこぼす。
 コナンの時からそうなのだが、なぜか放っておけない人だと思われている高木だ。
 ふたりは人目を避けて、少し遠い休憩室に向かった。



「じ、実はね」

 高木は二人分のコーヒーを買い、ひとつを新一に渡すと、相変わらずどもりながら話し出した。

「実は、あの、佐藤さんが…その、雨に弱いらしくて」

「雨、ですか?」

 なんだか話の矛先がよく分からなくて新一がまたもや首を傾げる。
 気付いているのかいないのか、高木は話すことにいっぱいいっぱいで、じっとコーヒーを睨み付けていた。

「ほら、雨の日って空が曇ってるだろう?だから朝になっても気付かないみたいで」

「ああ、なるほど。今は特に梅雨ですし、雨が苦手な人じゃなくても体がだるいですよね」

「そうなんだ!工藤君、分かってくれるかい?」

 同意を示してくれた新一に高木は勢いづいた。

「それでね、いつもならお母さんが起こしてくれるそうなんだけど、明日から一週間、ご近所の友だちと慰安旅行に出かけちゃうらしいんだ。それでその間、ちゃんと起きれるか心配だって、佐藤さんが…」

 ああそうか、と新一が頷く。漸く話の矛先が見えた。
 要するに、困っている佐藤をどうにかして手助けしたい、という相談なのだろう。

「高木さんが電話で起こしてあげたらいいじゃないですか。高木さんは平気なんでしょう、雨?」

「う、うん。でも、その…僕なんかが電話してもいいと思う?」

 所謂、モーニングコールだ。
 そんな、まるでべったべたに甘ったるい蜂蜜カップルがするようなことを、自分なんかがあの佐藤さんにしていいものなのか。
 またもや八の字眉毛になっている高木に、新一はしっかりと頷いた。

「もちろんですよ。高木さんは佐藤さんの恋人でしょう?」

 途端、高木の顔がぼんっ!と茹で上がった。
 確かに確かに、何度かキスもしたし、きちんとしたこ…恋人、なんだけども!
 それでも、あの一課のアイドルである佐藤さんにこの自分が…?

 なんだかひとりでぐるぐるしている高木に、新一は安心させるように微笑んだ。

「大丈夫ですよ。恋人からの電話って嬉しいものじゃないですか?まあ、佐藤さんは僕と似たタイプだから、素直に嬉しいとは言わないかも知れませんが…」

 確かに、佐藤さんなら「なによー用事もないのにかけてくるんじゃないわよ」くらい言いそうだ。…いや、絶対言う。
 そして思いきり落ち込むのだろう、と肩を落とす高木は、ふと思いついたことを尋ねた。

「じゃあ、工藤君も黒羽君にモーニングコールしたりするの?」

「まあ、時々は…」

 と、言いかけた新一の動きが止まる。

「あっ」

 と、気付いた高木の動きも止まる。
 すると先ほどの高木に負けず劣らず、新一の顔が朱に染め上がった。

「た、高木さん…?」

 珍しくどもる新一に、さすがにこれは誤魔化せないよなと、高木は腹を括った。

「ごめん…実はこの間、ふたりが…その…キ、キスしてるのを見ちゃって…」

「!?」

「ごめんね…見るつもりはなかったんだけど…」

 気の毒なくらい真っ赤な顔で眉を下げ唇を引き結びながら見上げてくる新一の表情は、いっそ凶悪なほどに可愛らしい。
 あの名探偵が、現場ではいつも凛と佇み毅然と犯人に立ち向かう名探偵が、これほどに動揺し、赤面している。
 が、不可抗力とは言え見られたくなかっただろう場面を見てしまった罪悪感の方が遥かに強く、高木はがっくりと項垂れた。
 すると、新一はまだ火照りの残る顔で、それでも首を振った。

「いいんです。別に隠してるわけじゃないし」

「そうなの?」

「だって、あいつを思う気持ちに疚しいところなんてひとつもありませんから」

 きっぱりと言い切った新一に高木は目を丸くした。
 てっきり、新一は恋人が誰かを隠していると思っていたのだ。
 仮にも同性が恋人であるわけだし、あまり大っぴらにできることでもないだろう。
 けれど、そんなことはなんでもないのだと笑う新一はちょっと格好良かった。

「そっか。黒羽君は幸せものだね」

「はい。だから高木さんも、堂々と佐藤さんに電話したらいいと思いますよ」

 最初の話を忘れかけていた高木は再び慌てふためくが、よくよく考えれば佐藤と似たタイプの新一も電話をもらえると嬉しいと言うのだから、思ったよりイケるかも知れない、と思い直した。

「…うん。頑張ってみるよ。ありがとう、工藤君」

 いえ、と言って首を振る新一に、そう言えば資料を借りに来ていたことを思いだし、高木は引き留めてしまったことを詫びながら別れを告げた。
 去り際、

「あ、黒羽君とのこと、言いふらすようなことはしないから安心してね」

 と言った高木に、新一は再び赤面させられるはめになった。



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