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掃除をしよう!




 彼が家に来るまで、工藤邸は荒れ放題だった。
 手入れのされていない庭。中身のない冷蔵庫。読んだら読みっぱなしの本。脱ぎ散らかされた服。
 外面がよく割と几帳面なくせに、新一は変なところでだらしない。
 その上自分の領域に他人が入ることを嫌うため、家政婦やヘルパーを雇うこともなかった。
 そして極めつけが、江戸川コナンとなっていたあの潜伏期間。
 家主にさえ見放された邸宅は、それはもう凄まじく荒れ果てていた。
 その工藤邸を今の状態にまで復元したのは他でもない、快斗だった。

 工藤邸に同居することになった快斗はまず、伸び放題だった植木を切り、芝生を整え、花を植え、水を撒いた。
 そして冷蔵庫の中を満たし、台所を占拠し、不摂生な恋人の狂った食生活を改善した。
 読みっぱなしになっていた本も今では読んだら元の場所に戻されるようになったし、洗濯物は遅くても二日以内に洗われるようになった。

 朝になればカーテンが開けられ、リビングには日光が燦々と降り注ぐ。
 夜にはふんわり花の香りがするシーツにくるまれて気持ちよく眠る。
 疲れて帰ってきた時に迎えてくれる温かい料理、温かい笑顔。
 それだけで体も心も温かくなることを、新一は知っている。

 だから――



「…掃除を。しようと、思ってたんだよ」

 疲れ切った表情でそう言った新一を前に、快斗は引きつった顔のまま固まっていた。

 目の前には水浸しの床、割れた皿、破れたカーテン、ひっくり返ったゴミ箱、などなど。
 それはもう、漫画でも見ているんじゃないかというような惨状が広がっていた。

 別に新一は洗濯機を回せば泡を噴かせたり、皿を洗えば割ったり、掃除機をかければカーテンを吸い込んで破ってしまうような不器っちょさんではない。
 むしろ料理だって人並みにこなすし、掃除洗濯もひとりの時には普通にこなしていた。
 それがなぜこんなことになってしまったのか。
 それは、

「ごめんなさい、快斗お兄さん…」

「ほんっと悪ぃ!兄ちゃん!」

「わ、悪気はなかったんですが…すみませんでした…」

 と言ってしゅんと項垂れている子供たち――少年探偵団の仕業だった。

「こいつらがたまたま博士んとこに遊びに来ててな。俺が家の掃除するっつったら、手伝ってくれるって言い出してさ。まぁ広い家だから人手はあった方が助かるってことで、…こうなったんだが」

 風呂掃除をしていた元太が蛇口を閉め忘れ、床上浸水。
 食器を仕舞おうとした歩美が転んで、皿破損。
 窓を拭いていた光彦が転んだ拍子にカーテンを掴んで破き、更には近くにあった諸々のものをひっくり返した、などなど。
 掃除どころか、これでは用事を増やしただけだと子供たちは真剣に落ち込んでいた。
 それを見た快斗と新一は、互いに顔を見合わせて苦笑をこぼした。

「三人とも、手伝ってくれてありがとね。今回ちょっと失敗しちゃったけど、大事なのは誰かのために手伝ってあげたいって気持ちだから」

「そうそう。おめーらのおかげで、快斗がいなくても寂しくなかったしさ」

「…ほんと?」

 恐る恐る顔を上げた歩美が泣きそうな顔で言う。

「おう。歩美も光彦も元太もサンキュな」

 そう言ってくしゃりと頭を撫でれば、三人は途端に笑顔になった。
 トラブルメーカーは相変わらずだが、この明るさがコナンや哀を支えてくれたのは確かだ。
 そうして快斗を交えた五人は、今度はちゃんとした掃除に取りかかった。

「疲れてんのに悪いな」

「大丈夫だよ。疲れなんて、新一に会ったら吹っ飛んじまったしv」

「ばーろ」

 くすくす笑って、二人は仲良く掃き掃除。
 破れてしまったカーテンは思い切って新しいものに変えることにした。
 濡れてしまった床は後日業者に来てもらうとして、取り敢えず元太と光彦に拭いて貰っている。
 危ない硝子は大人二人が処理をして、歩美には庭の水撒きを頼んだ。

「でもなんで急に掃除なんかしようと思ったんだ?」

 快斗が家事をしてれば手伝ってくれる新一だが、自分から積極的に動くことはあまりなかった。
 なのにどうして?と首を傾げる快斗に、新一は悪戯っぽく笑って。

「だって自分のために綺麗にされた部屋って、なんか無言の愛情表現って感じで嬉しくねぇ?」

「!」

 日本全国二十五カ所のマジックショーツアーと、その合間を縫って怪盗キッドのお仕事。
 そんな大仕事を終えて漸く帰ってきた恋人に、その喜びを味わわせてやりたかった。
 …まあ、今回は失敗してしまったのだが。

「まったく…嬉しいこと言ってくれるね」

「だろ?」

 くすくす笑って、引き寄せられるままに瞼を閉じて。
 久しぶりに感じる互いの温もりが体中に満ち足りるまで、瞼が開かれることはなかった。



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