隠恋慕
黒い花嫁 after
アレスと接触したその後、新一と白馬はパトカーで警視庁に向かい、事情聴取を受けた。会場で混乱はあったものの、結局誰ひとりとして怪我を負う者はいなかった。――怪盗キッドを除いて。しかしその事実を知る者は新一ただ一人だ。
客も全員無事に帰り、標的とされた女性も、ショックを受けてはいるもののそのまま警察の保護下に置かれることとなった。今後彼女が再び狙われる可能性は大きいだろう。
そして幸いにも、あの混乱の中で新一とアレスとの会話を鮮明に覚えている者はいなかった。おかげで警部たちにあの男との関わりを疑われることさえなかった。
ただひとつ気掛かりなのは、白馬だ。あの男との会話は、あの時すぐ近くにいた白馬にも聞こえていたはずなのに、あれから彼は何も言ってこない。新一は逆にそれが気掛かりだった。
「では国際指名手配犯の〝アレス〟で間違いないんだね?」
「ええ、自分でそう名乗ってましたし、僕も間違いないと思います」
「そうか…それにしてもよく無事だったね、工藤君」
「…警部たちの到着がもう少し遅かったら、どうなっていたか分かりません。有り難う御座いました」
もう少し遅れていたら、自分もキッドも殺されていたかも知れない。アレスは本気ではなかったけれど、彼が本気を出せば自分たちなど簡単に殺すことができただろう。
(キッド…大丈夫だろうか…)
肩の怪我は、決して軽いものではなかった。新一とて腹に弾丸を食らったことがある身だ、その痛みの凄まじさは身を以て知っている。あの時はまだ抵抗力の弱い子供の姿だったとは言え、思わず意識を手放してしまうほどだったのだ。キッドは平然と笑っていたけれど、それは強がりでしかない。
頼んでもいないのに勝手に自分を守るなどとほざき、マジシャンのくせに肩に大怪我を負って。もし神経でも傷つけて動かなくなったらどうすると言うのか。…自分を庇ったばかりに。
そこまで考えて、新一はハッと顔を強張らせた。マジシャンという言葉で思い出されるのは、何も怪盗キッドだけではない。
――黒羽、快斗。
(…あいつも、マジックショーの助手をしに来たんだ)
これは偶然だろうか。たまたまマジックショーの手伝いに来た少年が、たまたま人の気配に聡い新一にも悟られずに背後を取ることができ、たまたまどこかで怪我をして、たまたま血の付いたその手で新一の肩に触れた。
…不自然すぎる。
これを全て偶然で片づけるのはあまり愚かだ。黒羽快斗が怪盗キッドだと仮定すればこそ、全ての辻褄が合う。
「なあ白馬、おまえって江古田高校だったよな」
「そうですが?」
そっか、と曖昧に答えて。新一は心に決める。
――明日、黒羽に直接会いに行こう。
翌日の金曜日。新一は五限目の授業が終わるなり学校を飛び出して、江古田高校へと向かった。
六限目はさぼりだ。相手も高校生なのだから、部活動等をしていないとなるとすれ違う可能性もある。復学以来補習だ何だと忙しい新一は、本当ならさぼりなど以ての外なのだが、生憎とこの工藤新一は、補習と事件を天秤に掛けて補習を選ぶような男ではなかった。
そうして新一が江古田に着いたのは、まだこちらも六限目の最中のこと。授業中に突然押し掛けるわけにもいかず、校門で彼が出てくるのを待つことにした。
「オイ! 誰か知んねーけど、校門のとこに他校の奴立ってるぜ!」
しかも超美形!
そう言って騒ぎ出したのは、テレビもニュースも全く見ないため有名人や芸能人を全く知らない、今時の高校生には珍しい超アナログ派の男子生徒だった。窓側の席だった彼は、校門に立つその人の存在に授業中から気付いていたらしく、すぐにも騒ぎ出したい気持ちを抑え、六限目終了のチャイムを今か今かと待っていたのだ。そしてその騒ぎは一気に教室中に広まり、クラス中の生徒が一斉に騒ぎ出した。
「え? あれ、工藤新一じゃないの?」
「うっそ、マジ?」
「おまえ、工藤新一も知らねーのかよ! あれって名探偵の工藤新一じゃんか!」
「キャ――ッ! 生で見ると超カッコイ――ィ!」
さすがに名前ぐらいは知っていたのだろう、騒ぎを広めた彼は目を剥いている。教室内はいつの間にか、校門の前に佇む工藤新一が誰を待っているのかという話題で、教師を含むクラス中での大盛り上がりとなってしまったのだった。
そして、その隣のクラス。
ここでも同じような騒ぎが起きていた。
「ちょっと快斗、起きなさいよ!」
「んぁ~? あんだよ青子、俺ここんとこ寝てねんだよ…」
授業中ずっと寝てるくせに!
顔をしかめて怒ってくる幼馴染みに、快斗は仕方なく体を起こした。
ここのところ、昼は学校、夜は調べものに忙しくて、快斗はまともに寝ていなかった。必然的に睡眠は専ら授業中での補給となっている。とは言え、IQ400を誇る快斗にとって授業なんて必要ないので、居眠りをしていたって何ら問題ない。と言うか、快斗にとっての授業時間とは、常日頃からただの睡眠時間なのだ。
今日も今日とて当然のように居眠りを決め込んでいた快斗だが、いつもと違って、幼馴染みの少女はどこか興奮した様子で意気揚々と話しかけてきた。
「いいから見てよ、校門のとこ! 工藤新一がいるんだってさ!」
それに快斗は驚いたようにぱちぱちと目を瞬いた。
なんで?と思いながらも視線を窓の外へと流せば、確かにそこには彼が立っている。両目とも視力二.〇の快斗が間違えるはずもない。
「なんで工藤君が江古田にいるんだろ?」
「誰かと待ち合わせかなぁ?」
「ね、ね、声かけに行かない?」
「行きたーい!」
きゃあきゃあと黄色い声を上げる女の子たちのそんな会話がそこここから聞こえだして、快斗は思わず苦笑した。
言うまでもなく、名探偵の目当ては快斗だろう。白馬は昨夜遅く倫敦への帰国を決めたらしく、既に日本にいない。昨夜警視庁で彼とともに事情聴取を受けていた名探偵が、それを知らずにここまで押し掛けてくるはずもない。
いつかは来るだろうと思っていたけれど、こちらの予想を裏切る早さは彼の心配の現れだろうかと、快斗はほくそ笑んだ。
「あー、あいつ多分俺に用があるんだよ。先生にショートは抜けるって言っといてくれよ、青子」
「ええっ! 工藤君が快斗に? っていうか知り合いだったの?」
「ちょっとねぇ~♪」
軽くウィンクを残して、後は任せたとばかりに快斗は教室を抜け出す。その後ろ姿をぼんやり見送って、青子はどこか寂しげに言った。
「なによぉ…知り合いだなんて聞いてないわよ…」
「よっ、工藤! こんなとこでどーしたの?」
突然降ってきた声にびくりと肩を揺らし、新一は校門に預けていた背をばっと離した。振り向けば相変わらずの人懐こい笑顔がこちらを見つめている。
(…こいつ、また気配しなかったぞ!)
新一の疑いは一層濃くなった。油断していない新一の背後を二度もとれるような人物が、普通の人であるはずがないのだ。
「黒羽…おまえこそ、授業はもういいのかよ?」
「ショートはふけた! だって校門とこに工藤が見えたからさ、俺に用かなって思って」
白馬の奴は今倫敦だから、江古田に来る理由っつったら俺かなって…違った?
にこにこ笑ってそう言った男に、怪しいところは少しもない。キッドの持つ冷涼な気配ともほど遠い。
けれど、この一分の隙もないところが逆に怪しく思えた。新一の直感は相変わらず「黒羽快斗がキッドである」と告げていた。
(でも、こんなアホっぽい奴が…なんか考えらんねぇ…)
そんな失礼なことを思われていることに気づいているのかいないのか、ぐるぐる回っている新一を快斗は面白そうに眺めている。
快斗はもちろん、新一が自分をキッドではないかと疑っていることに気付いていた。でなければこの工藤新一がここに来た理由は考えられない。彼はつい昨日知り合ったばかりの、大して親しくもないマジシャンにわざわざ会いに来るような人物ではないのだ。
だが、快斗としても別にばれてもいいと思っているから、わざと気配を消して近寄ったのだ。わざわざマジシャンだと名乗って見せたのも、血のついた手でブレザーに触れたのも、全てはそのためだ。もちろん、その先に思うことあってのことだけれど。
「何考え込んじゃってんの?」
「あ、いや…その、黒羽って今日暇?」
「もっちろん♪」
心底嬉しそうな満面の笑みで頷いた快斗に、新一は「やはりキッドには見えないな…」と思った。キッドもよく笑うが、彼のような笑みじゃない。もっと嫌味で不適でムカツク笑みだ。
すると、快斗がその笑みのまま新一に言った。
「で? 名探偵はいったい何を知りたいのかな?」
「いや、何って…」
直接「黒羽は怪盗キッドですか」などと聞くのも馬鹿げている。と言うか間抜けだ。それに、証拠のないことを口にするのは無責任である。
では、いったい何と言えばいいだろうかと考え込んで…
――ふと。新一は快斗の顔を凝視した。
(ちょっと待て…今こいつ、なんて言った?)
〝名探偵〟って言わなかったかっ!
すると、まるで新一のその反応を待っていたかのように、目の前の男の纏う空気が鮮やかに変化した。
今までの満面の笑みもどこへやら、そこには彼の怪盗が如く不適に笑う男がいる。口角をつり上げ、軽く瞳を眇め。それまで微塵も感じなかった、あのぴんと張りつめた冷涼な気配まで匂わせる男に、もう間違いないと新一は確信した。
「おまっ、キ――ッ!」
――キッド!と続けたかった新一の言葉は、快斗の手によって奪われた。快斗の大きくてしなやかな手が新一の口を塞ぎ、もう片方の手の人差し指を口元に添えながら、「し~~」と囁いて片目を瞑ってみせる。
「やだなぁ、こんな往来で名前なんて呼ばないでよ。これでも有名人なんだからさ」
新一は唖然としてなかなか二の句が継げない。
が、腐っても名探偵工藤新一。すぐさま復活すると、声も低く脅かすように言った。
「やっぱりおまえ、怪盗キッドなんだな?」
「大正解~♪」
そのあまりの緊張感のない反応に、何が大正解だ…と新一は脱力した。
「…秘密じゃないのか? そんな簡単に教えていいのかっ?」
「え? だって名探偵に隠し通せるとは思ってなかったし。それに、正体バレちゃえば堂々とおまえとデートできるじゃん♡」
――デート?
新一は眩暈を覚えた。
そんな様子を楽しげに眺めて、快斗は続ける。
「せっかく学校まで来てくれたんだし、このままどっかデートしに行こうぜ? 工藤新一クン♡」
「――…っ誰がおまえなんかとデートなんかするかぁぁぁぁ!」
江古田高校の校門に、名探偵こと工藤新一の悲痛な叫び声が響き渡った。
「どうした? 飲まねーの、工藤?」
目の前でチョコレートパフェを美味しそうに食べる怪盗キッド――もとい、黒羽快斗を、新一は半眼で睨みつけていた。
結局あの後、快斗に連れられるままに新一は喫茶店に腰を落ち着かせた。実際聞きたいことも言いたいこともやまほどあったので、とりあえずはと従うことにしたのだ。
しかし、何を思ったのか、目の前の男が突然チョコレートパフェなんてものを注文したために、新一の口からは何も言葉が出てこなくなった。とてもじゃないが、こんなものを突きながらキッドの正体だの怪我の具合だのの話をする気にはなれなかった。しかも目の前でこんな甘ったるいものを食べられては、唯一頼んだコーヒーにすら手を伸ばす気になれない。
(っていうか丸め込まれただけだよな、これ…)
新一は未だに、同い年で、その上幸せそうにパフェを突きながらアホ面を曝しているこんな男があの気障な怪盗だとは信じ難い。けれど本人がそうだと認めているし、時々見せる表情も気配もキッドそのものとあっては、如何に信じ難くとも認めざるを得ないだろう。
つまり、世間を騒がしている神出鬼没の怪盗紳士の正体とは、こんな甘ったるいものが大好きなおちゃらけた高校生だった、というわけで。これでは誰も正体を掴めないはずだと、新一は嘆息した。
「なぁ…なんでおまえ、俺に正体ばらしたわけ?」
「だから言ったじゃん。おまえと堂々とデートできるから♡」
「ばーろ。冗談抜きで聞いてんだよ、俺は」
冗談なんかじゃないのに、と肩を竦める快斗を新一はさらりと無視する。その真剣な目に、快斗も態度を改めた。そして何とも不釣り合いだが、快斗はパフェを突きながら怪盗キッドよろしく、口角をニッと吊り上げた。
「おまえのボディガードとしては、普段からおまえの側にいるべきだと思ってね」
怪盗キッドの姿じゃ、ずっと側にいるわけにもいかないだろう?
その言葉に新一は柳眉を寄せた。
「なんだ、そのボディガードってのは」
「そのまんま。無鉄砲で危なっかしい探偵さんを守るんだよ」
「…絶対に断わる」
「なーんでそこまで拒むかなぁ?」
「とにかく、絶対に断わる! 迷惑だ!」
新一がぎっと快斗を睨み付ける。すると、それまで笑みを浮かべていた快斗は、すっとその笑みを消した。
不意に伸ばした手で新一の襟元を掴み、ぐいと引き寄せる。吐息の掛かる距離で耳元に囁いた。
「おまえが何と言おうと俺はおまえを守る。おまえは死なせない。俺が、絶対に。」
新一は困惑した表情で、すぐ近くにある快斗の顔を仰いだ。なぜ彼がそこまでして自分に関わろうとするのかがわからない、と。
「…なんでそんなに俺に構うんだ?」
「言っただろ? 可愛い姫君との約束だって」
「姫君って誰だ?」
「それに…」
快斗の瞳が真っ直ぐに新一を見つめ返す。その中にからかいの色は微塵も含まれていなかった。
「おまえを死なせたくない」
予想もしなかったその言葉に新一は目を見開いた。それに満足そうに笑ったかと思うと、快斗は「好きだからね♡」と嘯いて新一の頬に軽く口付けた。そしてそのまま手を離すと、再び何事もなかったかのように席に座り直してパフェを食べ始める。
新一は束の間固まったかのように動けなくなった。
「――なにしやがるっ!」
漸く硬直の解けた新一が、美味しそうにパフェを食べる快斗をギロリと睨み付ける。新一の怒りに、うん? と小首を傾げただけの快斗は、ただ楽しそうに笑っていた。新一は嫌そうに顔をしかめ、快斗の口付けた頬を思い切りごしごしと拭う。快斗は心なし赤く見える新一の顔を面白そうに眺めていた。
快斗がパフェを食べ終え、新一がすっかり冷めて不味くなったコーヒーを飲み干した頃、外はそろそろ暗くなり始めていた。
「そんじゃそろそろ帰りますか。名探偵、今日はありがとな!」
「うるせー、何がありがとだ」
勝手に引っ張り込んで勝手に言いたいことだけ言いやがって。
「まぁまぁ、そう怒んないでよ」
苦笑混じりに快斗がそう言って。
すると、不意に視線を逸らした新一が呟くようにぽつりと言った。
「…そのまま、帰んのかよ」
「へ?」
「だからっ、そのまま帰んのかよ! オメーの言いたいことだけ言って終わりかよ? 俺にはまだ聞きたいことがあるし、言いたいこともある!」
「…名探偵? それってどーゆーこと?」
「――…良いからもう少し付き合えってんだよっ!」
快斗は新一に引かれるまま、ずるずると工藤邸方面へと歩き出す。けれど、向かった先は工藤邸ではなかった。そのお隣の阿笠邸だ。
新一はチャイムを鳴らすと出てきた博士と適当に会話を交わし、哀のいる地下の研究室へと下りて行った。快斗はわけの分からないまま大人しく新一についていくと。
「灰原! ちょっとコイツの右肩見てやってくれ!」
新一の考えていることが分かって、快斗は苦笑を零した。つまり昨日の怪我を見てくれ、ということだ。
「…いきなり何かと思えば…まあ良いわ。見せてくれる?」
「どうも♡」
哀の申し出に快斗は大人しく上着を脱いで右肩を出した。それを見た新一が思わず眉を寄せる。
応急処置程度の治療しか施されていない右肩の銃創。それもそのはずだ。銃傷など、おいそれと普通の病院に掛かるわけにもいかない。怪盗などと言う副業を持つ彼ならば、特に。
だが、もちろんそれも新一の不機嫌を煽る要因のひとつではあったけれど、何よりも快斗の身体に残る傷跡の多さに、新一は眉を寄せたのだ。
銃創も右肩だけではない。刃物による刀傷など、ひとつふたつではなかった。とても医者に掛かったとは思えない縫合痕まである。それは彼の戦いの凄まじさを物語っていた。
けれど哀は特に気にすることもなく、黙々と治療を施していった。新一がこうして彼女に治療を頼むのは、それが普通の患者ではないからだと彼女も心得ているからだろう、と新一は思っていたのだけれど。
不意に哀が口を開いた。
「…律儀に約束を守ってくれた、ということかしら?」
「うん、まぁそうかな。俺の力不足でもあるんだけどね」
「そう。それはともかく、こんな適当な治療で済まさないで欲しいわね。いつか死ぬわよ?」
「それは、また怪我したら見てくれるってことかな?」
「…ええ、そうね」
二人の会話を傍で聞いていた新一は、あれ?と首を傾げる。これは、どう聞いても初対面の人間の会話ではない。それに、約束とは…
「…灰原。おまえ、もしかして…」
「なんだ、まだ分かってなかったの?」
「姫君って、灰原のことかぁっ?」
「あら、姫なんて可愛らしくなくて御免なさいね」
「何言ってんの、可愛いお姫さまじゃん♡」
「ありがと」
新一は益々混乱した。だって、あの晩哀は誰にも会っていないと言ったのだ。それなのに二人はちゃっかり会っていて、しかも新一の知らないところで妙な約束までしていて…
「灰原、アレ嘘だったのか!」
「貴方の嘘に比べたら可愛いものでしょ? 別にいいじゃない、そのくらい」
はぁぁ、と新一は盛大に溜息を吐いた。
確かに嘘…とまでは言わなくても、彼女に伝えていないことがたくさんある。それは彼女を巻き込みたくないと思うからこそだが、本人が望んでいないことを押しつける権利はないのだ。だから、新一はこれ以上文句を言うわけにもいかなかった。
「はい、もういいわよ」
「ありがとう」
「普通の病院に行けないなんて厄介な体ね。大体にして、あまり薬の効かない体なんじゃない?」
「その通りなんだよね。だから、今後ともよろしく頼みます」
哀は素っ気なく「ええ」とだけ返して、さっさと二人を阿笠邸から追い出した。
外はもういい加減真っ暗である。快斗がそろそろ帰ろうかと思った時、それを引き留めるように新一が快斗の袖を掴んだ。
「どしたの、工藤クン?」
「…おまえ、俺のボディガード止める気ないんだろ?」
「もちろん」
嫌だって言ったってやめないよ。
こればっかりは譲れないと、快斗がニッと笑う。
新一は小さくため息を吐くと、逸らしていた視線を快斗に合わせた。
「――分かった」
「うん?」
「だから。…いいって、言ってんだ。認めるよ」
「…それは、俺のボディガードを認めるってこと?」
「そうだよ。どうせ言ったって聞かねーんだろ。それならただ守られてるより、一緒に戦った方が早い!」
そう言って新一は挑むように快斗の目を見据えた。
「だから、おまえのことちゃんと教えろよ」
俺だけ知らないのは嫌だ。おまえの正体だって、今日やっと知ったんだから。
新一がそう言うと、快斗は今まで見たどんな笑顔より、ずっとずっと嬉しそうに笑った。
「…いいぜ? 怪盗キッドの最大の謎を、名探偵にお教えしましょう…」
十年も昔に遡る、長くて深い謎を名探偵に。
そうして長くて短い一晩中、快斗は新一に〝怪盗キッド〟の秘密を打ち明けたのだった。
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