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Second contact 3


 あれから、また二週間が経った。どうやら快斗は週末になると阿笠邸に泊まりに来る習慣らしく、その二日間は食生活が崩壊している新一のために工藤邸へ食事を作りに来るようになった。
 ところが、阿笠邸へ寄る度に様子見と称しては工藤邸を覗くようになり、その度にまるで改善されていない食生活に嘆いていたかと思うと、遂には毎日のように食事を作りに来るようになってしまっていた。しかも母子二人きりの快斗は、母が外で食事を済ませる日などは、新一の食事を作ったついでに自分の分も作り、一緒に食べることさえあった。新一にしてみれば有り得ないことだ。キッドとはもちろんのこと、快斗とも馴れ合うつもりはなかったというのに、知り合ってしまったばかりか今では家政夫状態である。
 そして、今日も今日とて快斗は当然のように工藤邸を訪れるのだ。

「よっ」
「……黒羽」

 軽く右手を挙げて挨拶すると、勝手知ったる何とやら、快斗はうんざりしている男の横をすり抜けて邸内に上がり込んだ。既に抵抗するだけ無駄であることをよく知る新一は、ただこれ見よがしに溜息を吐くだけに留めた。
 これでも始めの頃は快斗を追い出すためにあれこれと画策したのだ。居留守を使ったり無視を決め込んだり、迷惑だと面と向かって怒鳴ったことさえあった。けれど最初に家に上げてしまったのが悪かったのか、それとも単に新一が甘いのか、結局はこちらが顔を出すまで門前で佇んでいる彼を放っておけずに招き入れてしまうのだ。
 彼を心から拒むことのできない新一に残された道は、ただ自分がRであることを全力で隠しつつ、これ以上踏み込まれないようにするだけだった。

「そう言えば俺、おまえが出掛けてるとこ見たことねーけど、いつも何してんだ? もしかしてずっと引きこもり?」
「必要がなければ外には出ないな」
「おいおい。たまには出ないと体に悪いぜ」

 と言われても、体が悪いからこそ外に出られないのだが。

「おまえも知ってるだろ? 一度頭痛を起こしたら倒れちまうから、そうそう出られねーんだよ」
「うん。だから、誰かが一緒なら問題ないだろ? おまえが倒れたら俺が連れて帰ってやるよ」

 な?、と満面の笑みで手を差し出す快斗に、新一は眩暈を覚えた。もしかしなくともこれは、今から一緒に出掛けようというお誘いだろうか。

「…そこまでおまえに面倒かけるわけには…」
「まーたそうやって遠慮する! 俺がいつ面倒なんて言ったんだよ。俺はおまえと一緒に散歩してーの!」

 言うなり快斗は新一の手を取って外に飛び出してしまった。
 全く、こういう強引なところは父親とまるで似ていない。彼はいつでもこちらの気持ちを優先し、新一が嫌がることは絶対にしなかった。
 けれど困ったことに、新一は快斗のこの強引さが決して嫌いではなかった。
 強引なくせに変なところで気が利く男は、先導するように手を引きながらもあまり無理のない歩調で進んでいく。そんなに丁寧に扱わなくても壊れたりしないのにと、新一はもう苦笑を浮かべるしかなかった。
 本当は、快斗と一緒なら倒れる心配などないのだ。なぜかは分からないが、快斗といると灰姫の『声』が聞こえなくなる。一度や二度なら偶然かとも思うが、これが毎度のことともなれば気付かないわけがなかった。

(ほんとは…今すぐにでもこの手を振りほどかなきゃなんねーのに…)

 日に日にそれが難しくなっていくことを新一は自覚していた。自覚していながら、どうすることもできなかった。
 近くにいればいるほど、黒羽快斗という男に魅せられていく。屈託のない笑みも、他人事で感情を露わにする人の好さも、…その奥に秘められた激情も。叶うことならずっと見ていたいと思う。
 ……叶わない願いだと、知りながら。



「ここの公園には来たことある?」

 そこは、まだ幼かった新一が何度か幼馴染みの少女と訪れたことのある公園だった。生まれつき知能が発達していた新一は、ほどなくして子供同士の遊びよりも知的刺激を求めるようになったが、あの頃はまだ灰姫の呪縛もなく、蘭や友人たちと駆け回るのが大好きだった。
 だがそれも、今となっては遠い記憶の中の出来事でしかなかった。

「…もう十年以上、存在も忘れてたよ」

 どことも知れない遠くを眺めながらそう答えた新一に、快斗は微かに眉をひそめた。
 まただ。時折新一はとても近寄りがたい空気を放つ。それは触れれば弾かれてしまうようなものではなく、触れれば壊れてしまいそうな儚いものだ。下手に突けば途端に弾けてしまうだろう。だから快斗は、いつものように見て見ぬふりをするのだ。

「俺はさ、たまにここに来てマジックの練習をするんだ」
「こんな人が通る場所で?」
「だからいいんだ。いくら部屋に閉じこもって練習しててもうまくいかなかったマジックが、ここだと不思議とうまくいったりするんだよな」

 人に見られている緊張感だとか、誰かを喜ばせてあげたいと思う気持ちだとか。きっとそうしたものが力になるのだと快斗は思っている。

「死んだ親父がよく言ってた。客に接する時、そこは決闘の場だ、ってさ」
「…親父さん、が…」

 問い返す新一の声が掠れていたけれど、快斗はそれを単に自分に気を遣ってのことだろうと勘違いした。

「世界一偉大なマジシャンだ。今でも尊敬してる。俺もいつか親父みたいなマジシャンになりたい」

 まあ今は、この程度のマジックしかできないけど。そう言うと同時に新一の服の中から飛び出した鳩を合図に、快斗のマジックショーが始まった。
 あちこちから現れる鳩、花、トランプ。とても即興とは思えない、プロ顔負けの凄技の連続に、新一は息を吐く暇もなく目を奪われた。いつの間にか公園で遊んでいた子供たちも集まって、快斗の前には小さな人集りができている。けれどさすがは怪盗キッド、ギャラリーの数などまるで意に介した風もなく、鉄壁のポーカーフェイスでその指先からいくつもの魔法を生み出していた。

「――ご観覧頂き、有り難う御座いました」

 ぽんっ、と小気味よい音を立てながら右手に現れた花を、快斗はすっと新一に差し出す。それを羨ましそうに眺める子供たちには飴玉をプレゼントし、快斗はショーを終えた。
 散り散りに帰っていく子供たちを見送る快斗の横で、新一は受け取った花をじっと見つめていた。何のことはない、どこにでもある白詰草の花だ。けれどそれを見つめる内に堪えきれなくなり、新一は蹲ってしまった。

「お、おい! 大丈夫か、新一!」

 いつもの頭痛と勘違いした快斗に新一は俯いたまま緩く頷き、大丈夫だ、と呟いた。
もちろん頭痛などではない。快斗といる今、灰姫の声など思い出せもしない。けれど下手をしたら、新一にとっては頭痛などよりもずっと苦しかった。
 快斗は――こんなにもマジックが好きなのだ。それを教えてくれた父が、大好きなのだ。

(それなのに――…っ)

 新一は顔を上げると、心配そうな顔で覗き込んでくる快斗に「もう大丈夫だ」と微笑んだ。
 先程のポーカーフェイスが嘘のように崩れ去っている。これが快斗の素顔で、これが飾らない快斗の性質であることに新一はこの二週間で気付いていた。……それだけの時を、ともに過ごしてきたのだ。
 新一は、何が何でも快斗を守らなければならない。そのためなら、たとえこの身を嘘と偽りで塗り固めようとも構わなかった。





 街頭や月明かりさえ届かない薄暗い路地裏でも、新一にとっては何ら苦にならなかった。顔の半分を覆い隠してしまうこのサングラスは、ボタン操作ひとつであらゆる機能を発揮する。今は暗闇でも移動しやすいようにと暗視モードに設定されているため、暗闇を自由自在に動き回ることができた。怪盗Rが『猫』と呼ばれる所以である。
 新一は今、不法所持者から宝石を奪い返すためにRとして仕事に出ていた。
 突如として脳裏に『声』が響くのはいつものことだが、その宝石が数日後に闇市で売買されることを知り、新一は直ぐさま行動に移った。Rは怪盗キッドのように予告状を出すなどという面倒な真似はしないため、好きな時に好きなように動くことができる。ただひとつ注意すべきは不法所持者に対してだけだった。
 コートの左袖の中には細いワイヤーが仕込まれている。主に高層ビルからの脱出時に使用されるそれは、最長百メートルまで伸ばすことが可能だ。腰のホルダーには拳銃――麻酔針が内蔵された特殊な拳銃があり、尻ポケットには閃光弾や煙幕の類が仕込まれている。右足のブーツの中にはもうひとつ殺傷能力の低い小型の拳銃があるが、こちらは滅多に使われることはなかった。相手に気取られることも血を流すこともなく獲物を狩る。それが『猫』だ。
 けれど、この日の仕事はそう巧くいかなかった。
 所持者はひとり暮らしであるはずが、彼の部屋には予想外に何人もの男がいた。どれも新一よりずっと屈強で、それでいて狡賢そうな連中である。
 本来ならこの場は見送って翌日にでも出直すのが利口だっただろう。けれど今しも獲物である宝石が闇市へ搬送されようとしていたため、そうも言っていられなくなったのだ。
 新一はすぐに飛び出し、明らかに不利な状況でありながらも、見事宝石を奪い取ってみせた。激怒して追跡してくる男たちを翻弄し、閃光や煙幕を巧みに用いて彼らの目を欺く。そうしてそのしなやかな肢体と冴え渡る頭脳を以て見事彼らの追跡を振り切った。……はず、だったのだが。
 左手に仕込んだワイヤーを使って躊躇い無く地上へ飛び降りた新一に、男のひとりが発砲した。建物の側面を蹴ることでなんとか弾を避けた新一だったが、逸れた弾は運悪く唯一の命綱であったワイヤーを断ち切ってしまった。そして、重力から己を守ってくれるものを失った新一の体は――墜落した。

「……、ぅ…」

 ずきずきとした鈍痛が絶え間なく襲ってくるが、悲鳴を上げる体を叱咤して新一は無理矢理上体を起こした。不幸中の幸いか、墜落したのは丈の短い草が群生した芝生だったため、致命傷となる怪我は負わなかったようだ。しかし骨折こそないが、打撲と擦過傷の度合いは凄まじい。特に左膝はズボンも破れ、覗いた素肌は無惨にも裂けている。出血の量も目が眩むほどだ。
 けれど新一はさほど気に留めた様子もなく、ただもくもくと応急処置を施した。こんな怪我、言ってしまえば慣れている。死を覚悟したことも一度や二度ではないが、なぜかその度に運よく――新一は決してそれを幸運とは思わなかったが、誰かの手によって助けられてきた。
そしてやはり今回もそうであるようで。
 かさっ、と新一の耳に聞こえてきた草を踏みしめる足音は、墜落した新一を追う男たちのものとは明らかに違っていた。ひとり分の足音と、そしてひどく微弱ではあるけれどおそらくもうひとり。ここまで完璧に気配を殺せる者もそうそういないだろう。
 新一は僅かに身を固くした。全身の毛が逆立つように新一の周りに殺気がみなぎっていく。
 けれど、そこに現れたのは。

「――…キッド?」
「な…っ、R!」

 暗闇の中からふと姿を現したのは、新一のよく知る人物――黒羽快斗と、彼を手伝っているという探偵の白馬探だった。
 互いの表情に驚愕の色が浮かぶ。それもそのはずで、両者が両者とも互いにこんなところで会うとは思っていなかったのだから仕方ないだろう。
 快斗はあの白い目立つ装束ではなく、暗闇に溶けるような漆黒の装束を纏っていた。

「…こんなところで仲よくお散歩か」

 突然の登場には驚いた新一だが、すぐにその理由を思い当たり、口許に冷笑を浮かべた。今夜の獲物は闇市で売買される予定だった宝石だ。怪盗キッドがそれを嗅ぎ付け、私怨のある組織が関わっていないかと探っていたとしても何ら不思議はない。
 けれど、新一の皮肉に当然反論してくるだろうと思った白馬は、こちらを凝視したきり押し黙っていた。
 新一は訝しげにサングラスの奧の瞳を細めるが。

「黒羽君。彼を車まで運んでくれますか?」
「…OK」
「――え?」

 次の瞬間、目を瞠っていた。

「なにしやがる!」
「黙れ」

 こちらが動けないのをいいことに快斗は腹立たしくも軽々と新一を抱き上げると、足が痛むのも無視して暴れる新一を難なく抑え込み、少し離れた場所に駐車していた車へと足早に乗り込んだ。三人がその場を去るのと時を同じくして男たちがわらわらと姿を現す。おそらく彼らに見つかっていなければ新一は間違いなく更なる窮地に立たされていたことだろうが、それでも彼らに感謝する気など到底起きなかった。

「…なんのつもりだ」

 不機嫌も顕わに声を掛けるが、そんな新一を白馬は睨み付けながら言った。

「こんな杜撰な応急処置がありますか。歩けなくなりますよ」

 そのあまりに意外な言葉に、新一は二の句が継げなくなった。
 新一がRとして二人と接触した日、新一は捨て台詞にこの探偵へと悪辣な言葉を投げつけた。怒らせるつもりで言ったのだから、白馬が挑発に乗ったのは当然の成り行きだ。それにあれほど激昂していた白馬がそれを忘れているはずがない。
 だと、いうのに。

「…貴方もやはり、命の危険な使命を持っているんですね」

 そんな顔で、そんなことを言うものだから。

「…この、お人好し…っ」

 新一は自分の顔が歪んでいくのを感じた。唇をきつく噛みしめて、喉元をせり上がってくる何かをぐっと堪える。今口を開けば己にとってよからぬことを言ってしまうのは明白だった。
 白馬は快斗のことを言っているのだ。快斗が何のためにわざわざ危険の中へと飛び込むのか、その理由をおそらく知っているのだろう。永遠を望む愚者どもが求めて止まない灰姫を壊すため、敵対している組織を壊滅させるため、そして――父親を奪った憎い仇を葬る、ため。自らに課したその使命を果たすためなら、どれほどの危険がつきまとおうが快斗は諦めない。たとえそれが己の命をも脅かすものだとしても……
 新一が黙り込んでしまうと白馬はダッシュボードから救急箱のようなものを取り出し、断わりもなしに治療を始めた。剥き出しになった左膝に消毒液が染みこんできたけれど、それよりも新一はなぜか心臓が疼くような錯覚に陥る。免許など持っているはずもないのに当然のように運転している快斗を見遣り、次いで白馬を見遣った。
 ……そろそろ、覚悟を決めなければならない。
 新一は不意に白馬の腕を掴んで止めた。白馬が迷惑そうに顔を上げる。
 新一が言った。

「俺はRであることをやめることができない。死ぬまで、このままだ」
「死ぬまで…?」
「こんな怪我、俺にとっては日常茶飯事なんだよ。もう痛みも感じない。それがどういうことか分かるだろ? いつ死んでもおかしくない。死ぬほどの傷にも何も感じない。死ぬことが怖いと、思えない…」

 別に、背負った重荷を嘆くつもりはない。きっとそれは自分にしかできないことで、だからこそこうして生まれてきたのだ。新一はその全てを受け入れる。運命を、灰姫を、宝石たちの声を、そして――死でさえも。

「けど、おまえは違うだろ――怪盗キッド。おまえは独りじゃない。待ってる家族も友人もいる。支えてくれる仲間だっているじゃないか。姫に関わろうとするな。俺にも構うな。自分から危険に飛び込むような真似はやめろ」

 手を取られたきり動きを止めた白馬は探るような視線を向けた。それもそのはずだろう。この間は勝手にしろなどと言っておきながら、今は関わるなと牽制している。言っていることが支離滅裂だ。新一だとて分かっている。よく、分かっている。分かっているけど――仕方ないじゃないか。
 ただ、なんとしても守りたいだけ。
 けれど快斗は振り返りもせずに拒絶の言葉を投げつけた。

「悪いけど、諦める気はねえよ」

 それに新一は緩く口許を綻ばせただけで、それ以上は何も言わなかった。聞き入れてもらえないだろうことなど初めから分かっている。それでも、どうしても、これだけは新一も譲れないから。

「あんた…白馬だっけ。この間は悪かったな。それに、治療してくれてサンキュ」
「え?」
「あの言葉は嘘だ。俺はキッドを死なせたくない。バケモノになんかしたくない。だから、本当は関わって欲しくない」
「…R?」
「おまえは勝手にしたらいい。だから俺も…勝手におまえを守らせてもらう」

 予想もしなかった言葉が出たからだろう、バックミラーに映る快斗の目が僅かに見開かれている。目の前の白馬も同様だ。
 新一はくすりと笑みを零した。

「無茶すんなよ、キッド。…大事な命だろ?」

 新一は後ろ手に掴んだ扉のレバーを引くと、走行中の車から飛び出した。生憎きちんと閉めてやる余裕はなかったけれど、これ以上あの車に乗っているわけにはいかない。正体がばれることももちろん頂けないのだが、それよりもいつ自分を追って『あの男』が現れるか分からないからだ。組織に雇われたあの男はもう何年も前からRを追い続けている。既にRが日本にいるという情報も掴んでいるに違いない。
 新一は左膝を庇いながらうまく衝撃を殺して道路を転がると、とても怪我をしているとは思えない身軽な動きでその場から姿を消した。



 Rが車を飛び出した直後、快斗は慌てて急ブレーキをかけた。タイヤが耳障りな音を響かせながら急停車する。けれど急いで振り返ったそこにRの姿は既になく、後部座席に座っていた白馬が急ブレーキに耐えきれず体を前のシートにぶつけていた。
 心臓がどくどくと高鳴っている。それは興奮からくるのか、それとも不安からくるのか。
 周囲に目を凝らしてみても、夜遅いこともあって人の姿はひとつとして見えなかった。それでも快斗は車から降りると目を凝らすようにして必死に探した。開けっ放しでは危ないとドアを閉める白馬の姿など目にも入らない。
 快斗はたった今Rが残していった言葉を何度も反芻していた。

 ――大事な命だろ?

 似たフレーズをつい最近聞いた。否、それだけじゃない。その言葉を聞いた瞬間、快斗は既視感に陥った。なぜだか分からないけれど、その瞬間快斗の脳裏を過ぎったのは、阿笠邸の隣に住んでいる少年――新一の笑みと声、そして見ている方が切なくなるようなあの表情だった。
 快斗が自分の不注意で左手に火傷を負った時、何てことはない軽いものだったにも関わらず、新一はまるで自分自身のことのように辛そうな顔をしていた。
 そして、今。危険な真似はするなと、おそらく厚意で忠告してくれただろう彼を拒んだというのに、Rはそれでも笑った。サングラスで表情など分からなかったけれど、それはまるであの瞬間の新一のように、笑っているのか泣いているのか分からない曖昧な笑顔を連想させた。
 彼は一体何者なのだろうか。なぜ、新一と似たような笑みで、新一と似たようなことを言うのだろうか。
 不意に快斗の中にある疑問が浮かぶ。そんなはずがないと否定しかけて、けれどそれを否定するだけの材料がないことに気付いた。それどころか、考えれば考えるほどその疑問が確信に変わっていくのだ。
 いつまで待っても戻ってこない快斗に痺れを切らしたのか、白馬が小さく黒羽君、と声を掛けてくる。けれど快斗は反応することができなかった。天才と言われた頭脳が恨めしいほどに目まぐるしく働いている。

(新一…おまえなのか…?)

 怪盗Rと工藤新一。二人が同一人物ではないかという疑問は、確実に快斗の中で強い確信へと変わっていった。



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