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お弁当持ってピクニック




「お花見行かない?」

「ヤダ」

 たった一コンマの逡巡もなく却下され、言われるだろうと思っていた快斗が、それでも思わず漏らしてしまった溜息に罪はないだろう。

「…なんでって、聞いてもいい?」

「俺が人混み嫌いだってよく知ってるだろ?」

 何を今更、と本を読みながら心ここに在らずで答える新一に、新たな溜息がひとつ。
 確かにそれは言われるまでもなく知っていたことなのだが、世間は現在春真っ盛り、桜も綺麗なお花見シーズンなのである。
 日本人は皆桜が好きだ。桜は日本の国花だし、春を代表する花でもある。
 だが彼らとは別の理由で、快斗にとっても桜は特別な花だった。
 地に根を張り、力強く枝を伸ばし、そうかと思えば驚くほど可憐で淡く美しい花を咲かせる。
 そしてそれはたった一週間ほどで散ってしまうという儚い命。
 それはまるで、力強さと儚さを併せ持ったこの探偵のようで、快斗は桜には人一倍強い思い入れがあるのだった。
 けれど、これほどすげなく断わられてはとりつくしまもない。
 至極残念そうに引き下がった快斗の背中を、新一はちらりと横目で見遣った。



 その翌日の深夜未明。
 快斗はいつものようにタキシードを着込み、シルクハットにマントを纏って、とある展望ビルの屋上に立っていた。
 今日も今日とて危険な副業に精を出していた快斗だが、相変わらずの警部と張り合いのない探偵を適当にあしらって、手に入れた獲物を月へと翳す。
 それが望んだものである可能性はとても低かったから、違っていても別段落胆はない。
 それでもちょっぴり機嫌が悪く見えるのは、快斗のお誘いをことごとく却下してくれる恋人の所為だった。
 人混みが無理なら、桜と言わないまでもせめて散歩に行こう、と。
 けれど新一は「用事があるから無理!」と言ったきり、部屋に閉じこもってしまったのだ。
 いつもならもう少し粘る快斗も、キッドの予告日ともなれば下準備が必要なため、そうも言っていられない。
 仕方なく工藤邸を後にし、現在に至るわけである。

「…別にどうしても桜が見たいってわけじゃないから、いいけどね」

 ただ自分の好きなものを彼にも見せてあげたかった、それだけだから、と。
 ひとりごちた言葉に、思わぬ声が返った。

「なんだ、来て損した」

「!」

 吃驚して振り向けば、そこには確かに新一がいた。

「し、しんいちさん?こちらで何を…」

「おまえが花見花見ってうるせーから、わざわざ弁当持って来てやったんじゃねーか。この時間なら人混みも気にならねーしな」

「弁当って…新一が作ったの?」

「他に誰が作るんだよ」

 呆れた顔で溜息する探偵に、快斗は自分が今キッドの格好をしていることも忘れて飛びついた。

「スゲー感激…!」

 新一の右手には二人分の夜食を詰めた弁当が提げられている。
 昼間新一が言っていた用事とはこのことだったのだろう。
 けれど、わざわざ弁当を作ってくれたことも勿論嬉しい快斗だが、何より自分のためにこうして来てくれたことが嬉しかったのだ。

「夜桜だからって文句言うなよ?」

「言わないよ!ほんとは新一がいればそれだけでいいんだから」

「ばーろ」

 欲の薄い奴、と言って笑う新一に笑い返しながら、それはチガウと快斗は思った。
 快斗は自分がどれほど欲深いかよく知っている。
 ただそれは特定の、工藤新一という存在に対してのみ発動するものだから、端から見れば分かりにくいのだろう。

「さて」

 と言って、快斗はいつものように怪盗から黒羽快斗へと早変わりした。
 その鮮やかな手腕は変わることなく新一の目を楽しませる。

「じゃあ、桜の下でお花見しよっかv」

「おー」

 肌寒い風に熱を奪われないよう、快斗は新一の手を握る。
 それをしっかり握り返してくれる幸せに酔いながら、二人は真夜中の宴へと繰り出したのだった。



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