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蒼い天使 4

 あまり人通りの少ない路地裏が、その事件の現場となっていた。
 赤茶色の薄汚れたレンガ造りのマンションに三方を囲まれ、日当たりが悪いため薄暗い。
 人が悪事を行うには格好の場所だ。
 普段からここはカツアゲの常習場となっているせいもあり、誰も近寄ろうとはしなかった。

 そこにあるのは、元の色などほとんどわからないほどに赤黒く染まり上がったシーツの塊。
 でこぼとした凹凸、所々に縛られたロープによって顕わになる形から、それが人であることが解った。

『ひでぇもんだな……』

 レオナルドの零した言葉に頷きを返せるほどの余裕があるのは、白馬と新一、そして市警の警部ぐらいのものだ。
 女性の惨殺死体。
 それを取り囲むようにある、鳩の死骸。
 そして噎せ返るほどの、血の臭い。

 それを目前に柳眉を寄せない者はいなかった。
 けれど、現場には多くの状況証拠が残されている。
 おそらく突発的な犯行で、万全の準備もなかったせいだろう。
 大したトリックもなく、どうしようもなくなった死体をここに放置していったというところか……。

『どうだ、探。何か解りそうか?』
『そうですね……犯人を示すものが残ってるみたいですし、僕らの出番はないでしょう。市警の捜査で充分解決出来る範囲だと思います』

 そうでしょう? と、白馬がこちらを仰ぐ。
 けれど新一はそれには答えず、心中でニヤリと不敵に笑んだのだった。



『……え? 悪ぃ、聞いてなかった……もう一度言ってくれるか、白馬……』

 新一は少し青ざめた表情で目の前の死体を凝視し、口元を手で覆っていた。
 白馬の問いかけにハッと振り向く。
 ぎこちないその表情は、無理に平静を装っているようにしか見えなかった。

『工藤君? 顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?』
『平気だ、気にしないでくれ』

 目に見えて顔色の悪い新一は、けれど大丈夫だと笑い返す。
 その不自然さに眉を寄せつつも、白馬は今しがた話したことを繰り返した。

『僕はただ、今回は僕ら探偵の出番はないかも知れないと言ったんですが』
『ああ、そうかもな……』

 相づちを打つ新一に、けれどレオナルドが割って入る。

『出番はないかも知れないが、とにかく現場は見ておけ』
『それもそうですね』
『新一も、市警の捜査を見学するのも良いだろう』
『……ああ』

 新一は口元を抑えたまま頷くと、レオナルドと白馬に続いて現場へと向かう。
 風の吹きだまりとなったそこの血の臭いは、一層強かった。
 思わず嘔吐きかけた胃を呼吸を止めて落ち着ける。
 視覚と嗅覚からの刺激に何とか耐えながら、新一は慎重に現場を見回した。

 まずは死体を包むシーツ。
 大量の血が染みているが、その中にひとつ重要な手がかりがある。
 血で血を洗うが如く血の染みこんだシーツの中に、まるで血判を押したかのような指紋。
 動転していて見落としたのだろう、解りづらい場所にそれがあった。
 おそらく右手の小指の指紋。
 それもはっきりとしないものだったが、容疑者をしぼることは出来る。

 次に害者の体に残されたいくつもの手がかり。
 必死に抵抗をしたのだろう……大して長くもない爪の中に、犯人の皮膚と思われるものがある。
 指紋だけでも犯人の確定には充分だが、DNA鑑定をした結果、指紋の人物と合致すれば動かぬ証拠となるだろう。

『……科捜班が到着すれば、犯人の検挙は時間の問題ですね。交通機関に規制をかければ逃亡も防げるでしょう』
『ああ。害者にゃ気の毒だが、今回の事件は大したことねぇな』

 ICPOがあるからと言って、ここの治安が良いとは決して言い切れない。
 さすがに闇で蠢くような大犯罪は頻繁には起こらないが、それでも犯罪件数が減ることはなかった。

 と、話し込む彼らのもとへとひとりの刑事が駆け寄ってきた。

『ICPOのレオナルド・ロッシ刑事ですね?』
『はあ、そうですけど』
『すみませんが、少々お尋ねしたいことがありまして……』

 と、どうやら少し話し込む気配を見せる彼らの隣で、新一が急にまるで倒れ込むようにして壁に手をついた。
 側に立っていた警官が驚き、慌てて支えようとする。
 が、新一は自力で壁にもたれ掛かると、先ほどより更に白い顔になっていた。

『工藤君!? どうしました!?』

 いち早く異常に気付いた白馬が駆け寄る。
 白馬は以前、新一が発作を起こした場面を目撃しているだけあって、新一の体調のことをかなり気にかけていた。
 顔色の悪い彼を見た瞬間から気になっていたのだが……

 けれど新一は、力無く顔を上げると情けなさそうな笑みを浮かべる。

『悪い、なんか血の臭いにあたっちまったみてぇだ……』

 情けないけど、さっきから胃がムカついててさ。

 そう言った新一に発作ではないのだと安心する反面、白馬は首を傾げた。
 新一はもともと一課の刑事事件、その中でも殺人を専門としていた探偵である。
 あまり良いことではないが、言ってしまえばこういった現場には慣れているはずなのだ。
 その彼が血の臭いにやられたとは、白馬には一口に頷くことが出来なかった。

『なんだ新一、情けねぇな。これから研修しようってんだ、もっと丈夫にならねーとやってけねーぞ』
『すみません……』
『まあ、今日の所は仕方ないな。少し離れて待機してろ』
『解りました』

 新一は申し訳なさそうに、けれどそれでいて悔しそうに頷いた。
 現場を離れろとは、もし警官ならば決して言われてはならない台詞だ。
 それは探偵にしろ変わらない。
 前線を退くということは、事件から手を引くこととほぼ同意だから。



 新一は白馬に支えられながらその場を離れた。
 表通りに出たところにあるガードレールに腰掛けて、新鮮な空気を肺一杯に流し込む。
 その様子を心配そうに、そして探るように白馬は眺めていた。

「大丈夫ですか?」

 市警のひとりが好意で持ってきてくれた水をコクリと飲み込む新一に、白馬が遠慮がちに尋ねる。
 それに新一は、先ほどとは打って変わって艶然と微笑んだ。

「……この事件、気を付けろよ。裏がある」
「え?」
「目に見える証拠に惑わされるな。犯人はかなり頭のキレる奴だ。虚偽と真実の違いをしっかり見極めろ」

 紙コップの水をぐいと飲み干して、まるで世間話でもしているような調子で呟く。
 白馬はただ目を瞠ることしか出来なかった。

 今になって、新一のあの不自然な行動の意味が解ったのだ。
 彼は最初に自ら言っていたではないか。
 こちらでは目立ったことはしない、ただの引退気味の探偵で通すから、と。
 おそらく彼は、自分が見つけることの出来なかった真実の欠片を、あのたった数分の間に見つけてしまったのだ。
 まさに病弱で引退気味の頼りない探偵を演じながら。

 そう、演技だ。
 あの見るからに青ざめた紙のように白い顔も、発作かと見まごう仕草も、全て。
 さすがは工藤新一だと感心するほかなかった。

「工藤君も人が悪いですね。一瞬、本気でまた発作を起こしたのかと冷や冷やしましたよ……」
「悪ぃ、悪ぃ。敵を欺くにはまず味方から、ってな」
「敵って……。彼らは敵じゃないでしょうに……」

 悪びれもなく笑う彼に、けれどそんな彼を憎めない自分がいることも白馬はよく解っていた。
 怒りよりも安堵の方が強いのだから仕方ない。
 これ以上は不問にしようと、白馬は事件へと話を戻した。

「それで、裏とは?」
「指紋だよ。あの指紋は嘘だ」

 現場を見た限りではまるで、勢いに任せて殺害した犯人が、手に血がついているのも忘れ思わず掴んでしまい、それを消すために上から血をこびりつかせたように見えるだろう。
 実際新一も一度はそう思った。
 けれどすぐに違和感に気付いたのだ。

「血を消すために用いられたのは、あの鳩の血だ。ただ……あの小指の指紋をひとつ残した、血の途切れ具合が不自然なんだ」

 まるで滴らせるようにして付着した多量の血液。
 注目するべきは、その飛沫の大きさだ。
 他の部分は乱雑に、そこそこの高さから思い切りかけられているというのに……
 その指紋の近辺だけが、他よりも落下の高さが低いのだ。
 おそらく、不自然にならないようその指紋を残すため、他よりも慎重に血を付着させた結果だろう。

「なるほど……飛沫の大きさですか。……気付きませんでした」
「無理もねぇよ。大きさといっても大した差はねぇし、俺は以前に似た事件を扱ってたから気付けたってだけだ」

 謙遜でも皮肉でもなくそう言った新一だったが、探偵としてその事実に気付けなかった白馬は悔しげな表情をした。
 けれどそれは新一への対抗心ではなく、真実を見逃しかけた自分への苛立ちである。

「ともかく、これは市警やレオナルドが思ってるほど単純な事件じゃねぇ。後は白馬、おめーがしっかり事件を解決してくれ」

 一度関わった事件を途中で放り出すことはしたくないが、今は兎に角目立つ行動は厳禁だ。
 幸い白馬は優秀な探偵だし、最初の取っ掛かりさえあれば真実を見つけだせるだろう。
 それに白馬は頼もしく頷いてみせる。

「任せて下さい」

 新一がなぜ表に立とうとしないのか、その本当の理由を白馬は知らない。
 けれど、探偵にとってそれがどれほど悔しいことかはよく解っているのだ。
 だからこそ何も言わずに頷くことが出来る。
 白馬の知らないことだが、新一はコナンとして過ごした1年以上の年月で、探偵にとって本当に大切なモノが何であるかをよく理解していた。
 探偵は別に表に立つ必要はないのだ。
 真実が明るみになり、犯罪を防ぎ、犯人を挙げられれば、無意味に目立つ必要はない。
 コナンとして隠れ生きるしかなかったあの頃、それでも遭遇した事件を全て解決してきた実績があるからこそ、新一は今回も大丈夫だと思っていた。

 やがて白馬が新一をその場に残し、現場へと戻って行く。
 新一は白馬の服に密かに取り付けた盗聴器を聞くため、今ではほとんど使わなくなっていたあの眼鏡を取りだした。
 元の姿に戻ってからの新一は動きに制限を食らうことが多い。
 そのため、博士からもらった発明品は今もその要所要所で活用させてもらっているのだ。

 眼鏡をかけ、横のダイアルを調節しながら声を拾おうと耳を澄ませる。
 と、無防備に表通りに晒していた背後から、再びあの嫌な視線を感じた。

「!」

 人より二倍も三倍も鋭い感覚がその視線を捕え、新一は勢いよく振り返る。
 けれどそこには何も変わった様子はなく……

「……なんだってんだ」

 まとわりつくような、絡みつくような視線。
 遠くから眺めるなんて程度のモノではなく、明らかに何らかの目的があって監視しているようだ。

 新一は一度だけ現場を振り返る。
 が、誰もその視線には気付いていないようだった。
 それどころか、捜査に忙しい彼らは新一の姿すら目に入っていない状態である。
 新一は再びまた背後を振り返ると、その視線の主を捜し出すため、そっとその場を離れたのだった。



 人通りの多い大通りを、あたりに気を配りながら進んでいく。
 けれど、同じ方向に進む人、対向者のどちらにもそれらしい人物を見つけることは出来ない。
 執拗に新一にまとわりつく視線は今も感じるというのに。
 初めは目立つ白馬やレオナルドを追っているものだろうと思ったが、視線は確実に新一を追っていた。

(どこのどいつか知らねーが、どういうつもりだ)

 これが日本だというならまだ解る。
 けれどここはフランス、それもつい数時間前に着いたばかりだ。
 たまたま目に付いた自分を追う者なのか、それとも工藤新一と認識してのことなのか、それすらも現段階では解らない。

 と、不意に突き刺すような視線を感じた。
 先ほどまでのものとは明らかに異質な、心臓を握りしめるような激しいプレッシャー。
 これは……殺気だ。

 新一はそこが大通りだということも忘れ、その場に立ち止まった。
 突然立ち止まった彼を、まるで障害物のように避けていく人々。
 変なモノでも見るように、迷惑そうに視線を投げていく人々。
 けれど、新一の全神経は一点に惹きつけられ……

「なん……で……」

 人並みに紛れながら、それに埋もれることのない長身。
 ゆっくりと、流れに逆らわずこちらへ近づいてくる。
 新一の表情が次第に険しくなり、明らかな嫌悪の色を浮かべた。

「よぉ、名探偵?」
「……なんであんたがここにいるんだ――アレス!」

 新一の目の前にぴたりと立ち止まった男は、いつかの殺し屋だった。
 悠然と新一を見下ろす長身、薄い栗色の短髪、凍えるような灰色の瞳、そして、こめかみに二筋の傷痕。
 幾ら記憶を辿っても良い思い出などひとつもなかった。
 何よりも鮮明な記憶は……この男が、キッドの肩を撃ち抜いた瞬間の記憶である。

「それは俺の方が聞きたいぜ。一仕事終えてみりゃ、現場に来たのはなんとお前だからなぁ」

 新一の睨みをものともせず、アレスは軽く肩をすくめてみせる。

「一仕事……だと?」
「何の仕事かなんて聞くなよ、名探偵」
「……てめぇっ!!」

 カッと頭に血を上らせた新一はアレスに掴みかかろうとしたが、それはアレスによって容易に封じられてしまう。
 伸ばした右腕を掴まれ、逆手にギリと締め付けられる。
 新一は悔しげな声をもらしたが彼に手を放す気はないらしく、敵に背後を捕られたままの会話となった。

「そう熱くなんなよ、名探偵」
「名探偵だなんて呼ぶな……っ」
「なら新一か? ファーストネームで呼ぶほど親しくねーだろ」
「……ふざけやがってっ」

 くく、と耳元で低く笑うアレス。
 新一は力の限りに睨み付けるが、効果は全くと言って良いほどにない。
 通りの真ん中での遣り取りに通り過ぎる人が不審の目を向けるが、見るからにガタイの良いアレスに見て見ぬ振りをするものがほとんどだ。
 新一としても下手に手を出されるよりはその方が助かった。
 この男の機嫌を損ねれば、自分ひとりでは対応しきれない。

「あの事件……あの路地裏の死体は、あんたの仕業か」
「ご名答。ICPOを呼び出せればそれで良かったんだが、お前の登場ははっきり言って予定外だな」
「……ICPOを呼び出してどうするつもりだ?」
「オイオイ……素直に答えるとでも思ってんのかよ」

 とんだ探偵もいたものだと、アレスが戯けた調子で言う。
 それを聞いた新一の中に怒りの感情が込み上がった。

「まさか、誰かを呼び出すためだけに人を殺したのか」

 堅く目を閉じる。
 犯罪を、殺人を、それを愉しむ者を憎む新一の怒りが、僅かに彼の冷静さを奪う。

「人を殺すことに、何の感慨もないのか」

 殺された人の、恐怖や絶望に歪んだ表情が脳裏を過ぎる。
 その壮絶さや鮮烈さは、忘れようとしてもなかなか忘れられるものではない。
 それを、まるで紙くずのように破り捨ててしまう神経が新一には理解出来なかった。

 殺人を犯す心理は、納得出来ないが理解は出来る。
 けれど、殺人をお遊戯程度にしか考えていない心理が……新一に理解出来るはずもなかった。

 そうしてこの殺し屋は、至極当然のように応えるのだ。

「別に何とも思わねぇな。他人の痛みなんか知ったことじゃねぇ」

 更に強く瞳を閉じる。
 新一の内部は、この男に対する嫌悪と憎悪で混沌としていた。
 今瞳を開ければ見られてしまう。
 瞼の奧に隠された、炎のように揺らぐ蒼玉を。

 けれどアレスは、どこまでも新一の心を逆撫でるのだ。

「俺より弱ぇヤツは、俺にとっちゃ玩具みてーなモンさ」

 新一の中の何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
 瞳を開ける。
 そこには蒼い炎が煌々と燃えていたが、新一は最早気にしてなどいない。
 危険を避けたいと思う気持ちよりも、この男を許せないと思う感情が勝ったのだ。

「……ンの野郎ォ!!」

 勢いよく振り返り、腕が軋むのも構わないとばかりにアレスを振り払おうとした新一だったが……


「工藤君!!!」


 今一歩というところでかけられた声に、ハッと我に返る。
 見れば、白馬とレオナルド、そして数人の警官が駆け寄って来ていた。

「……邪魔が入っちまったな」

 残念がるよりも、むしろ楽しみが先に延びたと言わんばかりのアレス。
 新一はアレスの手を振りほどいた。
 ギリと睨み付けるが、そこにはもう先ほどの炎は浮かんではいない。

「ひとつ教えといてやるよ、名探偵」

 ぐんぐん近寄る彼らを余所に、アレスは余裕の態度で新一にそう言った。

「俺の標的は……アイツだ。せいぜい気を付けるよう、忠告してやるんだな」

 す、とアレスが指し示す。
 新一が目を瞠るのを楽しげに見守った後、人混みに紛れるようにして駆け出した。
 遠くで警官達が何か叫んでいるが、彼らが追いつけるとは到底思えない。
 新一はズキズキと痛む右腕の痛みなど意識の外に、アレスの消えた方角を睨み付けていた。



『大丈夫ですか、工藤君!?』

 直ぐさま駆けつけた白馬が真っ先にそう尋ねた。
 それに新一は曖昧に頷いたが、それでも彼は安心していない様子だった。

『白馬……おめー、どうしてここに……?』
『気付いたら工藤君の姿がないから、驚いて捜しに来たんですよ!』
『そしたら新一、お前が指名手配犯に羽交い締めにされてたんじゃねぇか!』

 呆けたこと言ってんじゃねぇ、とレオナルドにまで怒鳴られ、新一は返す言葉もなく苦笑いを浮かべた。
 やはり一言断わってから離れるべきだった、と。

『それにしても、あのアレスがフランスに居たとは……』
『ああ、マジで驚きだぜ』

 白馬とレオナルドが口々に言い、アレスを初めて見た警官たちも興奮した様子だった。
 けれど新一はひとり浮かない顔で、

『……あの事件、犯人はアレスだ』

 その台詞に、騒いでいた人々は一気に声を失った。
 唯一アレスを間近に捉えたことのある白馬だけが直ぐさま尋ね返す。

『それは本当ですか!?』
『自分で言ってたから間違いねぇ。他人の罪を被るようなヤツじゃねーし』

 と、白馬が心配げな視線で見つめてきた。
 新一は一度アレスに狙われているため、自分の身の心配をしてくれているのだろう。
 けれど今回の標的は自分ではないのだ。

 不意に新一が声を低くし、白馬にだけ聞こえる声で言った。

「白馬……あとで頼みがあるんだ」
「……? なんでしょう?」
「ここじゃ拙い、後で俺の部屋に来てくれ」

 真剣な新一の瞳に何かあるのだと勘付き、白馬はそれ以上は聞いてこなかった。
 無言で頷いて、直ぐに事件の捜査へと戻る。
 犯人は解ったが、ここで捜査を打ち切るわけにはいかないのだ。
 犯人がたとえあの凶悪犯だとしても、捕まえるのが彼らの仕事なのだから。

 やがて現場へと戻りだした彼らの最後尾に続きながら、新一は険しい表情を浮かべていた。
 その後ろ姿を眺めて、ふぅと息を吐く。
 そうして、覚悟を決めた。

(絶対に殺させねぇ)

 俺とあんたの、徹底抗戦といこうじゃないか。



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