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罪と罰


 数日前の騒動以来、すっかり我が家に居着いてしまった犯罪者ふたりに、新一は何とも形容しがたい視線を投げていた。
 目の前で繰り広げられる光景。世間に名を馳せる大怪盗と、姿こそ消したが未だその名前を轟かす凄腕の殺し屋。そのふたりが、嬉々として取り組んでいるのは……料理。しかもその料理が自分のために作られていると言うのだから、如何ともしがたい。
 味見をしてはあーだこーだと講義を始め、口を動かしながらも手も決して止めないという器用な真似をして。その手際の良さは、一介の男子高校生や、或いは新進気鋭の若手カメラマンのそれではない。
 この姿を彼らのそれぞれのファンが見たら、卒倒するかも知れない。新一は半ば本気でそんなことを考えていた。
 快斗も新一同様、白牙と再会したのは実に八年振りだと言う。久しぶりに会ったかつての師との意外な接点が料理とは、なんだか少し笑える話だが、ふたりは至極真剣に作っている。時々喧嘩のように手や足が出るが、両者ともに見事避けていた。
 …なんだかハイレベルな兄弟げんかを見ているようだと、今夜の夕食の準備に勤しむ背中を新一は見守った。



「……ちょっと待て、またンな勝手なこと言いやがって!」

 電話を相手に怒鳴っている白牙を見つけ、新一は思わず足を止めてそちらを向いた。
 なぜ家主である新一を差し置いて、居候の、しかも殺し屋が電話を取っているのかという疑問はすでに持たない。そんなものは白牙や快斗と暮らし始めた一週間で慣らされてしまった。
 思ったよりも頻繁に優作と連絡を取っている白牙。おそらく現在の電話の相手も優作だろうと当たりをつける。仮にも探偵の家で、他の者と連絡を取るはずはないと思いたい。
 さっさとその場を離れようとした新一の背中に、誰かの手がポスンと置かれた。……確かめるまでもなく、もうひとりの同居人である。

「まぁたやってるんだ、白牙ってば。飽きないねー」

 手を乗せた勢いで新一の背に体重をかけながら、快斗はガシガシと頭をかいている白牙を眺める。何かとくっついてくる快斗に眉を寄せつつも、新一は振り払おうとはせずに話に耳を傾けた。

「とにかくな、急には無理だ! ……違う、他にやりたいことがあるんだって。……ああわかったから、それが済んだらな」

 漸く話がまとまったのか、ふぅ……と溜息を吐いて受話器を元の場所へと戻す。それから同じ顔をひょっこり覗かせているふたりを振り返り、白牙は苦笑しながら話しかけてきた。

「堂々と立ち聞きか?」
「何言ってやがる。オメーが俺の家の俺の電話で話してたんだろーが」

 確かにその通りだ、と大して気にした様子もなく肩をすくめた。もとより聞かれて拙い話ならば、決して誰にも知られることなく連絡を取ることなど、白牙には容易いことなのだ。家の電話を使っていたあたり、大した内容でもないのだろう。
 うんとノビをしてソファに倒れ込むようにして腰掛けた白牙に続いて、新一と快斗もコーヒーを片手に向かいのソファに腰掛ける。白牙が優作と連絡を取ることは頻繁にあったが、その内容はほとんどが自分たちに関することばかりである。電話の後に何かと話をするのはほぼ習慣と化していた。
 立ち上る湯気に息を吹きかけながら冷ましているとき、不意に快斗が口を開く。

「白牙って優作さんに弱いよな」
「あ、それ、俺も思った」

 ふたりが昔からの知り合いだというのは知っている。けれど優作が四十一歳なのに対して、白牙はどう見てもまだ三十過ぎにしか見えない。それも、鍛え上げられた体が裏切っている。新一や快斗が生まれる前からの知り合いであるのは確実だが、そう考えると、白牙が優作と出会ったのは彼が随分と若い頃ということになる。少なくとも、今の新一よりも幼いはず。
 ふと白牙の唇が、にっ、と吊り上がったかと思うと。

「当たり前だ、優作は俺の愛人だからな」
「「はあっ!?」」

 ふたりの声が見事にかぶる。なまじ似ているだけに、全くのシンクロ状態だった。
 それを面白そうに低く笑い、白牙は倒していた体を起こすと、話す体勢を整える。

「ちなみに有希子も愛人だ」
「………何の冗談?」
「冗談じゃねーよ。愛人ってのぁ、愛する人って書くだろ? 俺はふたりを心底愛してる、それからお前らもな」

 だからお前らも愛人だぜ?
 と言われ、そういうことか、と納得する。
 白牙は今、「あいじん」ではなく「アイレン」と発音した。それは日本読みではなく中国読みだ。以前、彼の出生は中国だと言うようなことをちらと聞いたことがあったし、顔も東洋系であるから、漢字の語意として「愛人」は正しいのだろう。一瞬、あの熱々万年新婚夫婦に限って有り得ないとは思ったが、浮気かと思ってしまった。

「…なんであの父さんと母さんを愛するようなことになったんだが……興味があるような聞きたくないような…」
「…俺も知りたいようなそうじゃないような…」

 あの、一癖も二癖もありそうなご夫婦と、どういう経過があってそんな間柄になったのか。白牙のように、自分自身も癖のある人物でなければ、素の彼らと付き合っていくことは常人には無理……な気がする。
 白牙はククと低く笑い、何かを思いだしているのか僅かに目を眇めた。いかにも愉しげで、それでいて哀しい色が浮かび上がる。

「知りたいなら教えてやるぜ? そりゃあもう劇的な出逢いだったからなぁ」

 そう、なんたって。
 出逢った数分後に、殺されそうになったのだから……。





 荒い呼吸を整える暇もなく、白牙はただひたすら雨の中を駆けていた。過ぎ去った後に点々と流れ落ちる赤色が、暗い道の中に浮かび上がる。
 自分の全身から流れ落ちる血と、腕に抱え上げたその人から流れ出すそれと。命を維持するのに必要な血液はすでに足りず、その人の鼓動もとうに止まってしまっている。それでも放り出さないのは、それだけ自分にとって失えないものだったからだ。
 血まみれの体で表通りに出れば、すぐに人目に付く。人目に付けばすぐに話が広まり、自分の居場所もばれてしまう。それだけは避けたかった。だから敢えて、誰も通らないような暗く陰気な道を走っていた。
 そして数年前に新聞沙汰にされた殺人事件が起こった、今では全く誰も通らなくなってしまった道に入ったとき。ついに体にガタがきて、白牙は崩れるようにその場にくずおれた。

「……ぅ……く、そ…っ、動けよ、このポンコツが…!」

 逃げなければ追いつかれる。追いつかれれば殺される。殺されれば……彼女を抱き締めていられない。
 腕の中の、何も言わぬ骸と化した体を、残りの力の限りに抱き締めた、その時。ひび割れたコンクリートに靴音を響かせながら、人影が現れた。通り過ぎる車のスポットライトに浮かび上がったその姿に、白牙は呼吸も瞬きも忘れて、魅入った。
 暗闇に溶け込むようなブラックスーツ。スラリと伸びた長身に見合う、整った体躯。漆黒の髪の下から覗く瞳は、昏く暗く、けれど煌々とした光を称えている。……腕の中の彼女もかつて、そんな瞳をしていた。
 暗闇から現われた、死神の装束を着た、神のような瞳の男。その男がふとこちらを仰ぎ、微かに瞳を眇めたかと思うと。

「やあ。ミステリーの現場を訪れて、本物のミステリーと遭遇するとは驚きだな」

 まるで緊張感のない声音がそうのたまい、蹲る血まみれのふたつの人影へと躊躇いもなく近づいた。
 白牙は、男が奴らの追手だと思い、彼女を守るようにぎゅっと抱き締めながら僅かに後退した。……その程度の動きが限界だったのだ。

「おや。怖がらなくても何もしないよ?」
「……アンタ、誰だ」
「売れない小説家だよ。ネタ集めにここに足を運んだだけでね」

 名前を名乗らない男に不審の目を向けると、男は苦笑して肩をすくめた。

「工藤優作。日本ではそこそこ有名なんだけれどね」
「!!」

 その名前には、聞き覚えがあった。大した頭も持ってないくせに、世界的に有名だからと言う理由で、組織の頭が彼の書籍を大量に買っていたからだ。……世界的に、有名だから。

「君こそ、君のような子供がなぜこんなところに?」

 敢えて、「どうしてそんなことを」と聞かない優作を警戒しながらも、白牙は会話を続けた。

「……誰が子供だ」
「君だよ。まだ十四、五の子供じゃないか」
「!?」

 白牙は驚きに目を見開いた。確かにまだ、白牙は十四歳の子供だった。けれどそれは実年齢であって、実際よりずっと鍛え上げられた肉体や長身の見かけだけ見れば、既に成人に近い。それを一目で見抜いたのは、優作が初めてだった。

「確かに体や知能は年齢を上回ってしまったみたいだけど、君の目はまだ幼い」
「目、だと…?」
「そう。見る人が見れば、目を見るだけで色々とわかってしまうからね」

 優作は握っていた黒の傘を白牙へと傾けて、自分が濡れるのも構わずににこりと笑う。しかしなぜ優作がこんな行動を取るのかわからず、無条件の優しさに慣れていない白牙は、突き放すことで身を守ろうとした。皮肉気に口端を吊り上げ、挑戦的な目で睨み付ける。貧血を起こしているとは思えない力強さを、その目は秘めていた。

「見ただけでわかるだと? なら、なぜ俺がこんなところでこんなことをしてるのかも、わかるってのかよ?」

 わかるはずのない問いだった。戸籍のない子供など、ここでは珍しくもない。戸籍がなければ名前もないし、名前がなければ存在すら認められない。そして白牙には戸籍がなかった。
 けれど。

「ああ、君は人の命を奪うのが生業なんだろう? …バイヤ、だったかな?」

 びく、と白牙の肩が揺れる。その瞳は畏怖と驚愕に見開かれていた。

「君は有名だよ、バイヤ。まさか会うとは思ってなかったけどね」

 数年前から中国マフィアに抱えられたのは、まだ十も過ぎない、けれど暗殺術に長けた少年。戸籍のない彼は、組織にとっては使い勝手の良い駒だった。そう言った裏の世界に精通している優作には、わからないはずがないのだ。目の前のアンバランスな子供を見れば。
 あっさりと自分を言い当てられてしまった白牙は、けれどここで言い負かされてしまえるほど大人しくはなかった。ガツン、と硬質な音が響き、優作の頬を掠ったナイフが向こう側の壁に突き刺さる。どこにそんな力が残っていたと言うのか、そのナイフは柄の近くまで深々と刺さっている。しかし顔色ひとつ変えない優作を、白牙はそれでも睨み、笑いながら言った。

「あんたの言うとおり、俺は人殺しだ。…ここでアンタを殺すのに、何の躊躇いもないぜ?」

 そんな白牙に、優作は大仰に肩を落としながら溜息を吐いた。その様が聞き分けのない子供に対する大人のそれのようで、白牙は眉を吊り上げた。
 徐に懐に手を入れた優作は、黒光りのする塊を取り出した。ガチャリと重みのあるそれは……拳銃。ぴたりとそれを額に押し当てられ、ゆっくりと安全装置が起こされる。護身用程度のものだが、けれどここまで至近距離で使われれば、流石の白牙でも確実に死に至るだろう。
 無言で睨み付ける白牙に、優作の瞳も更に昏さを増した。

「……おそらく、これが君に訪れる最後のチャンスだろう」

 いきなりのわけがわからない発言に、白牙は眉を寄せた。
 けれど優作は顔色を変えず、銃もそのままに続けた。

「君はまだ十四だ。けれどこの世界に君が足を踏み入れたのは、九歳の時だ」
「……何が言いたい」
「この五年の間でわかったろう? 君のまわりにはまともな大人がいないんだ。自分の利益ばかりを求めて、まだ子供の君を使うことしか考えなかった。君は育てられたんじゃない。作られたんだ」

 子供であることを否定され、その結果、体だけが成長した。そしてそれに気付くことの出来ない……或いは気付いても気にも留めない者の中で生きてきた。

「だから、これがおそらく最後のチャンスだ。君が、自分で自分の生き様を決められる、最後のチャンス」

 突きつけられた塊は冷たいのに、感じるのが温かさなのはなぜだろう。見つめる瞳は昏いのに、眩しいと感じるのは、なぜか。
 ……それは、彼自身が救いを求めていたからに他ならず。

「君は何を望むんだい?」

 白牙の顔がくしゃりと歪んだ。引き結ばれた唇の上を、目から零れた何かが伝っていく。
 ――初めて流した、涙だった。
 押し当てられた堅く冷たかったモノがどけられ、温かいモノに包まれる。この世で唯一愛した少女の亡骸を抱いた白牙を、優作の腕が優しく抱いた。

「……れ、は……もう、…たくな、ぃ……っ」

 命が消える瞬間の声。命が消える瞬間の顔。信じられないと言う表情が、絶望に染まる瞬間。まるで小さな棘のように、抜けることもなく、痛みが消えることもなく。

「嫌だ、もう聞きたくない、見たくない、誰も殺したくない…!」

 絶叫に近い懺悔を、無言で受け止めてくれる腕。白牙は我武者らにその腕に縋り付いた。

「俺が彼女を殺した…大事だったのに、守るつもりだったのに! 美煌…ッ」
「……バイヤ」
「美煌、…メイ、ファン……」

「――バイヤ。聞きなさい」

 パチンと、頬が鳴った。叩かれた左頬にのろのろと手を宛いながら、白牙は茫然と優作を見上げた。思ったよりも優しい目を見つけ、魅入られるように見つめた。

「大事なら、彼女の死を一生忘れてはならない。忘れたとき、君は本物の人殺しになる」
「でも、俺はもう、人を…たくさん……」
「心の問題だよ。動物は生きていく上では、必ず誰かの犠牲の上に立っている。食べるためだったり、自己を守るためだったりね。君はこの環境の中でしか生きていく術がなかった。だから自己を守るために人を殺した。良いことでは決してない、誰かが哀しむからね。だから忘れちゃいけない。忘れたとき、それは生きていく手段ではなく、娯楽となってしまう」

 心を直接揺さぶられるような台詞に、白牙はただただ聞き入った。無意識に求めていた何かを満たされたような感覚だった。求めていたのは――存在意義。

「もし君が忘れてしまったなら、その時は私が君の命を奪おう。君の命を私が背負おう。それだけの価値が自分にあるのだと気付きなさい。
 ……だから、私と一緒においで」

 白牙は瞳をいっぱいに開き……そして頷いていた。
 この時から、白牙の命は優作のものとなったのだった。




「どうだ、強烈だろう?」

 悪戯げに瞳を輝かせながら笑った白牙に、新一と快斗は開いた口が塞がらなかった。予想通りの反応に、白牙は愉しげに笑う。

「強烈スギでしょ…」
「父さん、人殺し宣言かよ…」
「違う違う、命懸けでナンパされたんだよ、俺は」

 その時すでに有希子と結婚していた優作は、すぐさま有希子に白牙を紹介した。数ヶ月後に母親となる彼女は、大喜びで白牙を受け入れてくれた。ある意味ふたりは、白牙にとって親であり、掛け替えのない友人でもあったのだ。

「ま、昔話はこの程度にしといて。お風呂に入っておいで、新一」

 にっこりと微笑んで、三杯目になるコーヒーを体に悪いと取り上げた。新一はムッ、と唇を尖らせた。

「子供扱いするんじゃねーよ」
「子供扱いなんてしてないぜ? 恋人扱いだ」
「「は!?」」

 またもやハモッたふたりに、白牙は盛大に笑った。

「俺は、それから数ヶ月後に生まれたお前に、一目惚れしたんだよ」
「…赤ん坊に……?」
「そう、可愛かったぜぇ、赤ん坊の新一は」

 クク、と笑う白牙は無視して、新一はさっさと風呂に向かうことにした。
 パタンと扉が閉まるのを見計らって、白牙は愛おしそうに呟いた。

「……マジで惚れたんだぜ? 美煌そっくりの目で、俺を射抜いてくれた瞬間に、さ」

 その言葉を聞き取って、そう言う風に言えば新一だって誤解しないのに、と快斗は思う。
 話は終わったと、ウンとノビをして立ち上がりかけた快斗を、白牙が呼び止めた。何? と目で聞いてくる快斗に、白牙はスッと笑みを消した。それだけで何事かを察知した快斗もまた、表情を改める。

「俺がただの昔話なんかすると思ったか?」
「…いや、なんか裏がありそうとは思ったけどね」

 上等、と口端を吊り上げた白牙に、快斗は嫌そうに眉を寄せる。こう言うときは、大抵良い話であった試しがないのだ。

「もう暫くしたら、お前には俺と一緒に中国に来て貰う」
「……何で」
「訓練だ」
「新一は?」
「連れて行かない」
「なら、無理だ。俺はあいつを置いていかない」
「安心しろ、新一については優作が手配してくれる」

 つまり、先ほどの電話はその遣り取りだったのか、と快斗は溜息を吐いた。
 訓練自体に問題はない。どんなに鍛えても、鍛えすぎると言うことはないだろうから。ただ、新一と離れるのには抵抗がある。側にいないといざと言うとき何も出来ないし、何より離れていたくなかったから。

「お前の気持ちに問題はない。新一を守りたいってのはよくわかってるからな。でも、技術的にはまだまだだ」

 快斗はぐっと言葉に詰まった。新一の命が危険に晒されたのは、つい先日のことなのだ。あの時の恐怖はなかなか拭えないし、誰より力不足を痛感したのは快斗自身だった。

「あの時、新一に言われただろう? “お前の命を背負ってやる”と」
「!」
「あの言葉を決して軽く受け止めるな。お前は新一に自分の命を背負わせないために、全身全霊で自分と、そして新一を守らなくちゃならない」

 “背負う”と言った瞬間から、新一にとってお前は特別な存在となったのだから。
 これから先は、新一だけではなく自分の身も守らなければならない。例えその手にかけなくても、快斗が死ねば新一は一生その命を負ってくれるだろうから。その事実に漸く気付き、快斗は暫し茫然とする。
 そんな快斗に、白牙はさらに追い打ちをかけた。

「“罪人”の由来を教えてやろう。白き衣の中でも罪人と呼ばれるお前はな……パンドラである魂を守れなくなった時、その魂を生から解放してきた……つまり、殺してきたんだよ」

 快斗の瞳が大きく見開かれる。なぜ、自分が罪人と呼ばれるのか。それは、石を探す行為を示すモノではなかったのか。

「だが勘違いするな。それは、新一の魂とお前の魂が望んだ結果だ。…ふたりで、死んでいったんだから」
「ふたり、で……」
「だが、俺はお前に新一を殺させたりしない。お前も死なせたりしない」

 だから訓練が必要なんだ。それに快斗は無言で頷いた。
 過去の自分が行ってきたことを、間違いだと否定することは出来ない。きっと、その時の最善の道がそれだったのだ。生きることで死ぬより辛い苦痛を味わわなければならない魂を、解放して次の自分たちへと託したのかも知れない。
 けれど、今。生きているのは、自分。新一を守るのは、快斗だ。
 みすみす死ぬつもりはない。諦めるつもりも、毛頭ない。何がなんでも生き抜いて、永遠の戒めから彼を解き放ち――限りのある生を、ふたりで楽しみたいから。

「……行く」

 覚悟を決めた快斗に、白牙も無言で頷いた。

「夏期休業に入れば行く。それまでに、うまく新一にも話をつけるからそのつもりでいろ」
「わかった」

 握りしめた拳を、快斗は無言で見下ろした。




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